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初の野球部女子キャプテン

初の野球部女子キャプテン、五味遥花さんにインタビュー

初の野球部女子キャプテン、五味遥花さんにインタビュー

肌寒さが感じられる夕方4時半、清水町球場では選手たちより先に到着した女子マネージャーが、テキパキと練習の準備を始めていました。
そのひとりが、創部以来初の女子キャプテンとして注目を集めている、五味遥花さん。
マネージャー兼主将。新しい世界を切り開いている彼女に、女性部部長の小尾順子(78回生)と、第25代野球部マネージャーの小松志穂(103回生)がお話を伺いました。

ーーーマネージャーになろうと思ったきっかけは何でしたか?
五味:「中学時代はスポーツをしていたので、運動部に入るかすごく悩んだんですが、兄が清陵野球部に所属していたこともあり、上を目指すチームだと知っていて、上を目指すチームで戦いたいと思って決めました。」

ーーー守屋監督からキャプテンに指名されたのですよね?どんな気持ちでしたか?
五味:「もう驚きしかなかったですね。」

ーーーすぐに引き受けようと心は決まったんですか?
五味:「少し時間をおきました。でも断るという選択肢はなかったので、前向きに考えるようにして、心を決めました。」

ーーーメディアにもかなり注目されたと思います。どう感じていますか?
五味:「正直、そっとしておいて欲しいな、と。」
小松:「あぁ…ごめんなさい…。」
五味:「いえいえ。」(ステキな笑顔で。)

ーーーキャプテンになって苦労していることとかありますか?
五味:「あまり前例がないことなので、どうしたら良いか分からない不安はあります。選手との線引きが難しい点などは選手と相談しながら解決しています。」

ーーー女性だから、という苦労はありますか?
五味:「野球がそういうものであるのは分かっていましたが、女子は挨拶の列に並べないとか、抽選できないとか、改めて実態を知ったというのはあります。私はマネージャーでもあるので割り切れますが、女子選手には辛い状況だと感じました。そういう所は見直してもらえるきっかけになればいいな、と思っています。」

ーーー変わるきっかけを、遥花さんが今まさに作っていますね。
五味:「メディアへの取材も、現状を変えるきっかけになれば、と思って対応しています。」
小松:「これを読む人にもメッセージになりますね。性別関係なく、能力を発揮できる環境が当たり前になって欲しいです。応援しています!」

 キャプテンとして練習メニューを考えたり、指示を出したりしながら、マネージャーとして道具や食事(おにぎり)の準備をしたり、練習をサポートする遥花さん。テキパキと、そして堂々としたその姿は、チームを引っ張る存在であることが分かります。
そんな遥花さんの「そっとしておいて欲しい」という本音からも分かるように、「女子マネがキャプテンに!」このことが大きな話題になること自体が、ジェンダーギャップの現れなのではないでしょうか。
〈野球部のキャプテン=男性〉という固定的な性別役割分担意識(ジェンダーバイアス)がなければ、ここまで話題になることはなかったでしょう。

選手の反応はどうなのか、柳澤大雅選手にもお話を伺いました。

ーーー遥花さんがキャプテンに、と聞いた時、率直にどう感じましたか?
柳澤:「おどろきました。」

ーーー新チームになり3ヵ月、どう感じていますか?
柳澤:「今は、彼女がキャプテンじゃないのは想像できないですね。」

ーーー野球の成績以外の部分で脚光を浴びていることはどう感じていますか?
柳澤:「誇らしいことだと思います。」


柳澤選手の力強い答えに、時代は変わってきていることを肌で感じました。​

私が高校生の頃、アメリカ人の女性と話した時に、好きなスポーツは?との問いに、「baseball」と答えました。ポジションを聞かれたので、私はマネージャーです、と答えたら、「なぜ好きなのにプレイしないの?好きならプレイするものでしょ?」と言われ、ドキッとしたまま答えられなかった記憶が鮮明に甦ります。私が運動が得意ではなかったこともありますが、当時は女子が野球部に関わる=女子マネージャー、としか思っていませんでした。私自身もそうしたジェンダーバイアスに捉われていたのです。

​高校野球と女子マネージャーの変遷を見ると、1996年の夏の甲子園で女子マネージャーが記録員として初めてベンチに入りました。
2023年の春のセンバツでは、女子マネージャーが試合前のノッカーとしてグラウンドに立ち、話題になりました。部員が少なく、普段から女子マネージャーが練習でノッカーをしていたことから、学校側が要望をして実現したそうです。
実例があれば、変わっていく。
逆を言えば、実例がなければ、どれだけ時代に遅れていようが変わらないのかもしれません。清陵野球部でのこの実例は、どんな変化をもたらすでしょうか。

​遥花さんをキャプテンに指名した守屋監督(97回生)は、「適材だったから、それだけです。彼女がキャプテンをやればチームは強くなる、そう思った。」と話します。
適材適所での人材活用。まさにダイバーシティの考え方そのものです。
女性だから、マネージャーだから、そうした固定観念に捉われてはいないのです。

​守屋監督のお話では、秋の大会までは女子には認められていなかった抽選や表彰式への参加は、すでに変わっているとのことでした。
主将の抽選で決まる大会の選手宣誓。「もし遥花主将が選手宣誓を引き当てたら…?どうなるだろうね?」と守屋監督は話します。
「こんなに注目されると思っていなかった」とも話す監督は、大きな一石を投じながら、自身が投じた石によって生じるその変化を楽しんでいるようにも見えました。

​今後も抽選会などで遥花さんが表舞台に立てば、彼女の「そっとしておいて欲しい」思いに反して多くの注目を集めることでしょう。温かく見守りたい思いです。

​様々な女性活躍の歴史を見ても、それは先駆者の苦労の上に成り立ってきました。
女性が、そしてすべての人が、ジェンダーギャップに悩み苦しむことなく、その能力を発揮し活躍できるような社会にしなければいけません。
私たち同窓生は何ができるでしょうか。

​数年前、全国高校女子硬式野球選手権大会の決勝戦が初めて甲子園球場で開催されることになり、それを応援する武庫川女子大学が出した新聞広告のメッセージ、

​「女子だから」とあきらめた。
「女子なのに」と驚かれた。
「女子だって」できるとみんなが気づいた、特別な夏。

​今年の夏はどんな夏になるでしょうか。
まずは、野球部の応援にスタンドに行きましょう!スタンドでの懐かしい再会が待っているかもしれません。

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